なぜ今、ニュースレターなのか? 2 ~ メディアの生存戦略 ~

ニュースレターという配信形式の興隆を時代背景からご説明します

前回のエッセイニュースレターは、Substack という個人クリエイターがニュースレターでマネタイズできるサービスの登場を、タイムラインが助長する注目経済からの脱却を、広告モデルからサブスクリプションモデルへの転換という切り口で書きました。

実はニュースレターの興隆は、いろんな切り口から説明できます。ある web サービスが急に注目されるのには理由があって、大きな複数のイベントによる人々の行動や思考の変化がその要因になっています。

今回は、なぜ今ニュースレターが注目されているのかについて、メディアの生存戦略という観点でリサーチしました。

Facebook のデータ流出問題

なぜ今ニュースレター?を語る上で、Facebook の失墜についての話題は外せません。日本国内では報じられたものの、とくに大きな騒ぎにならなかったと記憶していますが、実は海外では大変な騒ぎになっていたのです。詳しくリサーチしましたが非常に長くなってしまうので、時系列だけ。

  • 2013 年 Cambridge Analytica 社が facebook を使って性格診断アプリである「Thisisyourdigitallife」という名のアプリを介し、アプリを使った本人とその友人のデータを集め始める

  • 2015 年より拡散されたロシア政府の介入により工作されたフェイクニュースが約 1 億 2600 万人に届いてしまう

  • 2016 年のトランプ大統領選のマーケティングに Cambridge Analytica 社が介入(600 億円の受注)

  • 2018 年 3 月 Cambridge Analytica 社を介したデータ流出が明らかになる

  • 2018 年 9 月 プロフィールの「プレビュー」機能に関する脆弱性を外部のハッカーに悪用されたもので、最大で 9,000 万人が影響を受けた可能性

  • 2019 年 2 億 6700 万人以上のFacebookユーザーの電話番号や名前が、誰でもアクセス可能なオンライン上のデータベースで公開されていることが発見される

上記のように、繰り返される大量のデータ流出と、それを引き起こしてしまっている Facebook 社のガバナンスについてここ数年世界中から非難の声が上がっています。

この一連の流れで、facebook アカウントを削除するブーム「#DeleteFacebook」が起こり、実際に何百万ものアカウントが若者を中心に削除された事も報じられています。

他テック企業への波及

Facebook の一連の失墜によって、シリコンバレー系のスタートアップ全体がデータプライバシーについて見直さざるを得ない流れになりました。

例えば、Google はこれまでターゲティングなどに使用される、トラッキング用サードパーティCookie の利用を広告パートナー企業に許していましたが、この一連の流れの煽りを受けて、2 年以内に提供終了するとの発表がありました。

ハラスメントなど他のトピックも入ってしまうので複雑ですが、Uber のコーポレート・ガバナンスについての批判や、セラノス事件(血液検査についての技術を偽装)など、シリコンバレーのスタートアップの成長を最優先するやり方と、それを助長する投資家に対して世間が厳しい目を向けるようになりました。

メディアが煽るように、データの不正な取得等に対して、スタートアップ企業に対して犯人探しが行われるようになりました。

Apple などの各社もそれを受けて、サードパーティによるデータ取得の利用規約を厳しくするという流れがここ 3 年ほどトレンドになっています。

インターネットメディアの生存戦略

この大きな流れを受けて、インターネット上にコンテンツを投稿するメディア企業たちも、

Facebook や Google などのプラットフォームへの依存を減らさなきゃ!

という危機感を持つことになります。サードパーティ Cookie を利用した広告マネタイズも難しくなるし、facebook 自体が揺らぐことでメディアのトラフィックが下がるかもしれない。

そこでプラットフォームにほとんど依存しないニュースレターいわゆる「メルマガ」というレガシーなメディア形態に再び注目が集まることになりました。

facebook や他 SNS 上のいいね!やフォローが増えても、プラットフォームが揺らぐだけでファンは離れてしまう。

いいね!やフォローを集める代わりにメールアドレスを収集すれば、プラットフォームが時代とともに移り変わったとしても影響を受けにくい、という考えです。

早いところはその仕込みが 2015 年前後から終わっており、今や有名ニュースレターメディアが欧米を中心に複数立ち上がっています。その状況があるからこそ、それを個人向けに作りましょうよ!という Substack のコンテキストが今広く受け入れられているのかなと思います。

ここまでの調査に利用した参考リンクは下記です。

参考リンク

ここからは、成功しているニュースレターメディアについてのリサーチ結果を記述します。

ニュースレターメディアの戦略

では実際、どんなニュースレターメディアがあり、どう顧客を獲得してきているのでしょうか。

theSkimm

ミレニアル世代の女性向けに、文化、政治、テクノロジーなどのトピックを会話形式で説明するニュースレターが theSkimm です。

2012 年に設立されて以来、2018 年時点で購読者が 700 万人以上おり、80% が女性で、その 90% 以上が大卒だそうです。

月額 $2.99 で、限定コンテンツへのアクセスができるというマネタイズ。1 日のメール開封率は 30% と同分野のニュースレターの開封率は 20% 程度なのでかなり高い水準にあります。月〜金で毎日配信されます。

メディア展開は Facebook、Youtube、Instagram、App Store、メール、ポッドキャストと広く展開しています。アプリはニュース上の大きなイベントをカレンダーで見られるという機能もあります。

theSkimm の成長要因は戦略としてアンバサダー・プログラムを運営していることです。コンテンツのターゲットが明確であることも考えられます。2016 年時点で 2 万人のアンバサダーを囲っていました。

10 人以上の読者を口コミで獲得することで、限定 Facebook グループやイベントへのアクセス権をもらえたり、各段階で限定 LinkedIn グループや、theSkimm でのインターンシップへの優先応募権、起業志向の読者へ奨学金を与える機会がもらえたりするようです。どんどんいきましょう。

The Hustle

2015 年に設立され、シリコンバレーのリアルイベントを中心に広がったのが、The Hustle です。スタートアップコミュニティ向けにビジネスとテックニュースを届けています。

メディア展開としては、ニュースレター、ポッドキャストを運営しています。

開封率は実に 40% 以上で、2017 年時点 50 万人以上の購読者を抱えています。Trends という有料コンテンツの購読は年間 $299 という価格設定になっています。

意外にも女性が 40% を占めているようで、スタートアップも少しずつ男女比が均等になりつつあるのかなとか思っちゃいます。

The Hustle もアンバサダープログラムと口コミで伸ばしており、アンバサダーになると、その人数に応じて、パーカーやカンファレンスのチケット($250 ~ $400 相当)がもらえます。アンバサダーは 2017 年時点で 3,000 人以上。

良くも悪くも、ニュースレターはネット上のコンテンツとしてメディアを基本は置かないため、口コミというリアル販路と相性が良いのかもしれません。Next!

Quartz

2012 年から始まった Quartz は、高収入ビジネスマン向けにビジネスニュースを配信しています。隙間時間にニュースを読んでもらうことを想定して、20 本の記事を選出して配信しています。

金額は、年間 $100 or 月間 $15 という感じ。開封率は驚愕の 78 % で、70 万人の購読者がいます。

他製品とのクロスプロモーションとシェアしたくなる記事クオリティを意識しているとインタビュー記事で語られていました。

スマートなビジネスマンがスキマ時間にサクサク読んでいる良質なニュースレターといったところでしょうか。次最後にしましょう。

Morning Brew

2015 年に始まった Morning Brew。若いビジネスプロフェッショナルのためにデザインされた毎日のニュースレターです。購読者は平均 28 歳で、金融・テック・コンサル系の読者が 30% を占めています。

総合ビジネスニュースメディアで、購読者 20 万人以上の開封率は 50% 前後。無料なのですが、週末に発行されるニュースレター「Light Roast」へのアクセス権を解除したり、その他の特典を獲得するには、友人を紹介する必要があります。


欧米は本当にニュースレターが流行っていて、ニュースレターを探すためのサイトもあるんです。Discover by Revue

一応、自分のためにもニュースレターメディアを調べる時に参照したリンクを置いておきます。

参考リンク

あとがき

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自分のリサーチで得られたインサイトの共有をどんどんやっていきたいと考えています。起業家という職業柄、そういったインサイトを蓄積しておきたいですし、このエッセイがきっかけで繋がりが生まれたり議論が生まれたりするといいなと考えてます。

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